Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編

一応、監視を兼ねているだろう案内役の人がついてる。一人しかいないから楽にやらかせそうだ。無論、王宮だから警備なんてあちこちにうじゃうじゃいるけどね。建築図は事前に頭に叩き込んだし、綿密な打ち合わせもしてある。

『あ、ついでに僕もおトイレ使わせてもらいますね』

アーベルがこう言うのも打ち合わせの中。
案内されたトイレは主に来客が使うもので、やっぱりそこにすら警備はいる。けど、それも想定内だ。

一応、用を済ませてすっきりしたぼくは個室にある壁を探る……うん、あった。

大理石の壁に似つかわしくない凹み。まだら模様に紛れて刻まれているから、本当によくよく観察しないと見逃すだろうね。

(ここを……こうして、よし!)

事前に渡されていた工具を嵌めれば、ピッタリ回せる。カチリ、と小さな音が聞こえたのを確認して、壁をゆっくり押せば……ひと一人が出入り出来る脱出口が現れた。ちなみに音を誤魔化すため、もう一度トイレを流しておいた。



『カ~ル、まだかい!ぼくヤバいよ~!』
『待って!もういいよ』

外に聞かせるためわざとらしい大声で会話をしてから、個室のカギを開けるとアーベルは慌てて飛び込んだように見せ、乱暴にドアを閉めた。

「……やったみたいだね」
「うん。さ、行こう」

もう一度トイレを流してその水音がする間に、ぼくとアーベルは脱出口を出て元通りに閉めておいた。

為政者の非常時の脱出経路はいくらでもある。
これもそのうちのひとつで、かつては王族のみに伝わっていたもの。王族の血を引くアーベル家だから情報を得られたんだ。

全く灯りがないかび臭い中を、用意していたペンライトで照らしながら進む。

着いた先は、王族のみに許された居住区だった。

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