パトリツィア・ホテル
その時だった。


「あ、咲ちゃん!」


毎日、聞き慣れた声……愛しいその声が私を呼んだ。


「ゆうちゃん!」


声の方を向くと、シルバーのスーツをきっちり着こなした新宮くんが、爽やかに白い歯を見せていた。


「さ……咲ちゃん? ゆうちゃん!?」


隣では神澤さんが、私達のお互いの呼称を反復して呆気に取られていた。


「ほら、来なよ。ホテルロビー……『Story Maker』の制作チームのスタッフが挨拶したいってさ!」

「え、えぇ……」


彼はその華やかなホテルの中へ、私の手を引いた。


「し、新宮くん……」


まだ呆気に取られている神澤さんを、新宮くんは横目で見て、フッと笑った。


「あ、神澤さん。来てくれたんだ」

「えぇ。だって、私……御社の投資先ですから」

「そうだね。でも、今日の主役は俺の彼女……咲ちゃんだから! そこを勘違いしないで、邪魔だけはしないでくれよな!」

「えっ、そ、そんな。邪魔だなんて……」

「さ、行こ! 咲ちゃん」


彼は私の手をグイグイと引いて、ホテルに入った。



私はそんな彼にときめきながらも……気がかりなことを尋ねた。


「ちょっと、ゆうちゃん。良かったの?」

「良かったって、何が?」

「いや、神澤さん。だって、このホテルにとって重要な投資先のお嬢様なんじゃ……」
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