パトリツィア・ホテル
「あなた達! 夕食、できたわよ。新宮くん。どうぞ、召し上がって行って」

私と彼の間に流れ始めた深刻な空気を、一階のリビングで料理していた母の声が遮った。


「え、夕食って……」

「新宮くんが持って来てくれた松阪牛のステーキ。ほら、いい匂いでしょ」

「あ、本当だ! お母さん、ありがとうございます!」


新宮くんは目を輝かして一階への階段を降り始めた。


「え、いや、でも。うちみたいな庶民のステーキなんて、御曹司様のお口に合うの?」

「何を言ってるんだよ。俺、ずっと憧れてたんだよ、こういうの」

「こういうの?」

「家族と一緒の、温かい食事。一流シェフの作る料理なんかよりずっと」


あ……そうだ。

私、新宮くんを御曹司様で私達庶民とは違うと思っていたんだけど……新宮くんは、ずっと、寂しかったんだ。

あの日……お母さんが迎えに来なくって、それ以降、きっとずっと、家族で一緒に食事をすることなんてなくて。

私にとって当たり前のことが、彼にとっては『当たり前』じゃなかったんだ……

そんなことを考えると、とっても切なくて。

同時に、彼のことが愛しくてたまらなくなった。
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