パトリツィア・ホテル
「こぉれ、咲。何を百面相して真っ赤になってるのよ」

「え、いや、百面相って……」

お母さんに不意をつかれて慌てる私を見て、新宮くんはまたも吹き出した。

「そうなんですよ、お母さん。咲さんはとっても表情が豊かで。見ていて飽きない……いや、とっても楽しいんです」

「あらま、あんたの変顔にこぉんなことを言ってくれる男の子なんていないわよ。大切にしなさいよ」

「いや、見てて飽きないとか、言ったでしょうが。まるで奇異な者みたいに……」

「あれ、そんなこと、言ってないですよ。ねぇ、お母さん」

「ねーぇ、新宮のお坊ちゃん」


そんなことをノリノリで話しながら、お母さんはお皿を運んで来た。


「もう……」


いいやって言おうとした時。

私の目は、お皿の上の美味しそうな松阪牛のステーキに釘付けになった。

ジュウジュウ焼けた肉に、漂ってくるとっても香ばしい匂い……


「すごい……めっちゃ、美味しそう」

「本当だ。これはすごい……どんなシェフが作るよりも美味しそうですよ、お母さん」

「まぁ、嬉しい。お坊ちゃんはやっぱり、お上手ね。さて……お父さんの分は焼かずにとってるし。先にみんなでいただきましょうか」

「わーい!」


子供のような喜び声を上げる私を新宮くんが見てにっこりと笑って……

私はまた、きまりが悪くなって俯いた。
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