パトリツィア・ホテル
「えっと、私達の1-Cは三階の東……あ、本当だ。ヤバい!」

一階の西のこの教室から三階の東までだったら、走って五分でギリギリ着くかどうか……そのことに気付いた私は焦る。

すると、彼は腕時計から私の顔に視線を移し、私もふと彼の顔に目をやった。

そんな私達は目が合って……思わず吹き出した。


「走るぞ!」

「うん!」


私達は立ち上がり、三階東側の教室に向かって駆け出した。

弾む息とともに私の胸に流れ込むのは、何処か懐かしい感覚……遥か昔、幼い頃にも経験したような、そんな感覚だった。




ホームルームが始まった。

「それでは、春の遠足で行きたい場所がある人は挙手で教えて下さい」

私は黒板に向かいながら、彼のキリッとした声にしびれていた。

「はい! オーストラリア」

「えっ……」

「流石に海外は行けないです」

狼狽える私の隣で新宮くんは苦笑いする。

「なーんだ、やっぱり」

「でも、国内便なら飛行機に乗れますよ。そうですよね、先生」

「ええ」

ナナちゃん先生はにっこりと目を細めた。

「でも、北海道や沖縄なんて、もう何回も行って飽きてるしなぁ……」

お金持ちのクラスメイトから、そんな声が上がる。

いや、私はどちらも行ったことないんだけど……。

そんなことを考えて溜息を吐いた。
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