パトリツィア・ホテル
私の知る限り、彼に友達がいないなんて考えられなかった。

だって、まだ学校が始まって間もないというのに、彼はクラスのアイドル的な存在で、周りには必ず人がいるし。

彼はクラスの人気者で友達は山ほどいる。

私の見る限りでも、本当にそうなのに……

「いいや、俺の友達は咲だけだよ」

横から彼の悪戯っぽい声が聞こえて私の顔はカァーッと熱くなった。

「ちょ……ちょっと、新宮くん。からかわないでくれる?」

私は彼の父親の前だということも忘れて、火照った顔で新宮くんを睨む。


すると、

「はは、はっはっは!」

向かいに座っていた父親が笑い出した。

「いやぁ、咲さん。勇人と本当に仲がいいんだね」

「え……い、いえ……」

否定しようとしたけれど、「いいえ、仲が良くないです」なんて言うのも違う気がして、言葉に詰まる。

しどろもどろな私を、父親は今度は真剣な表情で真っ直ぐに見つめた。

「それで……交渉したいことって、何だい?」

「えっ?」

「だって、君が私に直接交渉したいことがあると言ってるって、勇人からメールをもらったんだ」

「えっ、いや……」

「何の交渉なんだね?」

彼の父親は口元に笑みを浮かべながら、じっと私を見つめた。


(え〜〜っ、いや、私は連れて来られただけで、交渉は新宮くんがやるんじゃ……)

そう思って隣をチラ見すると、新宮くんはニッと目を細めて舌をチラリと出した。
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