パトリツィア・ホテル
まったく……早くも出鼻を挫かれた。

今日くらいは清楚で可愛らしい女子でいたかったのに……。

そんなことを考えながら、ツイツイと早足を進めた。


「おーい、どこに行くんだ? 入場口はこっちだぞ!」

「えっ、あ……」


どうやら私が入ろうとしていたのは、トイレとは思えないほどにお洒落なトイレだったみたいで。

(またやらかした……)

私の顔はかぁーっと熱くなった。


「まさか、間違えた?」


ニッと白い歯を見せる彼をキッと睨んだ。


「レディーにそんなこと聞かないでよ。トイレよ、トイレ!」


真っ赤になって入りたくもないトイレに入る私を見て、新宮くんはまた吹き出していた。



入場口では新宮くんは顔パスだった。

勿論、私も友達ってことで通してもらって……

「やっぱり、御曹司様は違うんだな」


そんな言葉が口から出ると新宮くんはクスっと笑った。


「何言ってんだよ、咲。俺は昔と何も変わらないぞ」

「えっ? 昔って?」


頭に「?」の浮かぶ私を見て、彼はフゥッと溜息を吐いた。


「やっぱり覚えてないのか……俺の心にはずっと残ってるのにな、あの日のこと」

「あの日のこと?」


さらに狐につままれる私に彼はにっこりと笑った。
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