パトリツィア・ホテル
「まぁ、きっと……今日、思い出すよ」

「思い出す?」


彼は、まだ狐につままれている私の手を引いた。


「あれに乗ろうよ、咲ちゃん!」

「えっ……いや、ちゃん付け!?」


何故に急にそんな呼び方を……と言うより先に、彼は指さす方へ駆けて行った。

でも、彼に呼ばれた『咲ちゃん』って響きに何処か聞き覚えがあって……私は何だか不思議な気持ちになった。

それに、彼が駆けて行ったのはメリーゴーランド。

どうして……この歳でメリーゴーランド?

高校生向けのアトラクションなんて他にも沢山あったのに、どういう訳か私達は小さな子供向けのそれに乗った。

それも、馬ではなくて青い馬車に……彼と向かい合って、メリーゴーランドの音楽に合わせて回ることになったのだ。

(どうして馬車?)

周りで回っている馬車に乗っているのは小さな子供達ばかりで、恥ずかしくなって俯いた。

でも彼は堂々としていて。

(ねぇ、小さな子供ばかりで恥ずかしくない?)

そう言おうと思い、そっと顔を上げてみると、彼はニッと白い歯を見せて私に笑いかけた。

その爽やかな笑顔はやっぱりカッコよくて……私はつい、顔を火照らせてしまった。


「どう、咲ちゃん。思い出した?」

「えっ……」


彼に言われて動揺した。

言われてみると、確かに私……遥か遠い昔に、同じようなことをしていたような気がした。
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