パトリツィア・ホテル
「やっと……思い出してくれたね、咲ちゃん」


新宮くん……いや、ゆうちゃんは切れ長の目を細めた。


「いや、思い出すも何も……え〜、うそっ!」


信じられなかった。

だって、思い出せば思い出すほどに目の前の彼は私の記憶の中の坊やとはかけ離れていて。

あのビービー喚いていた泣き虫がこんなイケメンに!?

やっぱり信じられず、私はマジマジと彼を見つめた。

そして……


「プッ……」


何だか急に可笑しくなって。

思わず吹き出した。


「あはは、あはははは!」


吹き出してしまったら、より一層可笑しさが止まらなくなって……私は御曹司様を前に笑い転げた。


「何だよ、そこまで可笑しいか?」

「だって、だって……あの泣き虫坊やがイケメン御曹司様だなんて。今までこんなにクールぶってただなんて……ウケる〜!」

「何だよ、クールぶるって。俺はあの時とは全然違う……正真正銘のクールだよ!」

「ダメ……。正真正銘のクールって……さらにウケる〜!」


キャッキャと笑いに笑う私を見て、彼はフゥっと溜息をついた。


「咲ちゃんの方は……あの時と何も変わらないな」

「何それ? あんたが変わりすぎなだけよ!」


彼の正体を知る以前の……御曹司様を前にした緊張感は最早、消え去ってしまっていた。
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