パトリツィア・ホテル
「俺にとっては……忘れられない思い出だったんだけど。咲ちゃんは今まで忘れてたんだな」


新宮くんの顔は少し寂しそうになった。


「なーにをしんみりしてるのよ! 忘れられないって……迷子になったのがそんなにショックだったの? 弱虫さんね」

「いや、そうじゃないって!」

「じゃあ、何? 二人してピエロに手を引っ張られて迷子センターに連れて行かれたのがそんなに楽しかった?」

「いや、だから……」


そんなことを言い合っているうちにメリーゴーランドは回り終わって。

私達は二人でテーマパーク内の道に出た。

「わぁ……やっぱり、混んでる」

流石は国内最大規模のテーマパーク……こんなに広い敷地なのに、人がひしめき合っていた。

(こんなテーマパークを貸し切れたら……そりゃあ、すごいだろうな)

改めて、ぼんやりとそんなことを考えた。



その時だった。

「わぁ……」

前方から流れてきて耳に入った楽しい音楽に、私はワクワクした。

煌びやかな衣装を纏った行列が賑やかなミュージックを流し、トランペットにホルン、ピアニカ……様々な楽器を演奏しながらこちらに進んで来たのだ。

その中心……白馬の引く馬車からは、華やかなピンクのドレスを纏った、麗しいお姫様が微笑みながらこちらに手を振ってくれていた。

「すごぉい! お姫様だ……」

私は人集りの中で、そのパトリツィアのお姫様のパレードに見惚れていた。
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