パトリツィア・ホテル
教室に入ると……ソッコーで神澤さんの刺すような視線が私に向けられて、私は背筋がゾクっとした。


「ちょ、ちょっと、朱里。あんた、昨日私が新宮くんと行ったって、誰かに話した?」


私はヒソヒソ声で朱里に話しかけた。


「い、いや、誰にも話してないわよ。って言うか、私、まだ誰ともそこまで仲良くなってないし」


朱里の言ってることは、きっと嘘ではない。

だって、朱里はお洒落な女子高生の中に馴染んでいるように見えても、まだどこか壁を作っていた……そう。

昔からの付き合いで彼女の人見知りの性格を知っている私には分かる。

なのに……誰からか分からないが、何と噂の回るのがはやいことだろう。


席に着いて溜息を吐く私の前に、オーディコロンの甘い香りを漂わせた神澤さんが上品に歩み寄ってきて……しかし、この上なく冷たい口調の言葉が放たれた。


「島崎さん。あなた、一緒にトイレに来て下さる?」

「えっ……」


私の背筋に冷たいものが触れたかのように、ゾワっと鳥肌が立った。


「まさか、嫌だ、なんて言わないわよね。何しろ、この神澤さんの頼みなんだから」


周りでは、早くも彼女の取り巻きになったと思しき、これまた優雅……だけれど嫌な雰囲気を漂わせた生徒数人が私に冷たい眼差しを向けていた。
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