パトリツィア・ホテル
高鳴る鼓動を抑えて……私はようやく、口を開いた。


「ゆうちゃんの気持ちは痛いほどに伝わってきて、とても嬉しい。でも……」


気持ちを落ち着けるため、私はすっと目を瞑った。


「まだ、私は自分で自分の気持ちが……どういう風に言葉にしたらいいのか、分からない」

「そうか」


そういう彼の笑顔は少し残念そうで。

私の胸はまた、チクリと痛くなった。

だから、私はまるで、それを取り繕うかのように言葉を絞り出した。


「でも……絶対に、遠足が終わるまでに答えを出すから。私の気持ち……絶対に、言葉にできるように、頑張るから。だから……」


必死で絞り出す私を見て、彼はにっこりと目を細めた。


「分かった。俺、待ってるよ。咲ちゃんの気持ちが聞けるの」

「うん……」


本当はとても嬉しかった。

新宮くんはそれほどまでに、私のことを想ってくれている……

だけど、私は人を好きとか、そういうことは初めてで。

戸惑わずにはいられなかったのだ。


そんな私を見て、彼はポンと手を叩いた。


「そうだ、咲ちゃん。カラオケ、連れて行ってくれない?」

「えっ?」


唐突な提案に目を丸くする私に、彼は恥ずかしそうに笑った。


「実は俺……生まれてから一度も行ったことがなくってさ」

「うそ!?」

「それで、高校に入ったら……行って見たかったんだ」


私は無邪気にそんなことを言う彼を見て……思わず吹き出してしまった。


「そっか。御曹司様だもんね」

「あー、馬鹿にした?」

「してない、してない。そうね……じゃあ、私が歌い方の基本から教えてあげるわ」

「やっぱり、馬鹿にしてる!」


私はそんな彼を見てクスッと笑った。


御曹司だけど、実は御曹司らしくない彼……そんな彼の元が、やっぱり私には心地よい。

そう思った。
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