カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~

離れていた席のその女性が大股でこちらへ歩いて来て、その勢いに周囲の人々も振り返る。
紺のワンピースに首元をパールで飾ったその人は、私の隣までやってきて顔を覗き込んだ。

「さ、さ、佐藤さん!?」

「そうよぉ。んもう、気付かなかった? ずっと向こうの席にいたんだから。ほら、あっちがうちの旦那。結婚二十周年だからって豪華ディナーに来てるの。アハハハハ」

背後のテーブルを指され、そこには旦那さんだという大人しそうな男性がポツンと残されていた。

いきな現れた佐藤さんに私は無意識に「ゲ」という顔をして椅子ごと数センチ避ける。しかし逃がしてもらえず、彼女は顔を近付けて私にぐりぐりと迫ってくる。

「それはそうと、星野さん! 異動するのにあんなメールで済ますなんてダメよ! んもう私たちが礼儀をビシバシ教育したのに忘れちゃったの?」

「す、すみません……」

「それにね、星野さんがいなくなって課長が大変なんだから! 元気なくて脱け殻みたいになってるのよぉ」

え……?

まったくの予想外の情報に、私は顔の力が抜け、ポカンと口を開ける。
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