カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~

涙で視界が潤むが、佐藤さんの前で泣いては課長に言い付けられると冷静になり、どうにか堪えた。
課長への未練で泣いていた、だなんて知られたくない。

深呼吸をし、笑顔を作って顔を上げた。

「やだなぁ、佐藤さん。何度も言っているじゃないですか。隼……加賀課長とは、そんなんじゃないですから」

いっぱいいっぱいにならながら絞り出した言葉だったのに、佐藤さんは「そう?」と気まぐれに首をかしげ、背後で「もう行くぞ」と呼びに来た旦那さんに腕を引っ張られている。

「星野さん! 総務部でお別れ会やりましょ! この間のバルでまた計画してちょうだい!」

「……はい」

私のお別れ会を、私が企画するの?とおかしくて苦笑いをしたが、その会に出る気はさらさらない。
私はもう、総務部にも、そしていずれこの会社にも関わらなくなるのだから。
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