副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~

 
 すると。
 踊り場で倒れている重乃がいた。
 階段から転がり落ちたのか、頭から血を流して顔も血だらけになっていた。


 その姿を見ると、涼花の顔が青ざめた。

 誰かが階段をもぼってゆく音がして、途中のフロアで入って行くドアの音が響いた。


 
 どうしよう…。

 とりあえず救急車を呼ばなくてはと、涼花は携帯電話を取り出した。


 するとドアの開く音がして、誰かが階段を上って来る音がした。


 誰か来る…。
 私、疑われる? 

 ドキドキと甲が高鳴り頭が混乱してきた涼花…。


「あれ? 北里さん? 」

 声がして振り向くと、そこには宇宙がいた。


 青ざめた顔の涼花を見て。
 宇宙は冷静な顔で倒れている重乃を見た。


 何も言わず携帯電話を取り出した宇宙は、電話をかけた。

「救急車をお願いします。オフィスビル階段で、女性が転落して大怪我しています。…はい…はい…警察にも連絡します…」


 電話を切った宇宙はそのまま警察に電話をかけ、同じように状況を説明した。


 
 電話を切った後、宇宙はじっと涼花を見つめた。

 じっと見つめられ、涼花は疑われていると思いギュッと口元を引き締めた。


「心配しなくていい。アンタのアリバイは、ちゃんと証明してあげるよ」

 え? と、涼花は宇宙を見た。


「ここ、防犯カメラ付いているから。それを見れば一発で判るだろう? それに…あんたが重乃に呼び出された事は、俺も知っているから」

「…ご存じなのですか? 」

「まぁ偶然だけどな。ちゃんと証明してあげる」


 ギュッと、涼花の手を握り宇宙はニコっと笑った。
 その笑顔はちょっと小悪魔的な笑いだった。


「とりあえず、この場を離れよう。もう救急車来ているし、警察には直接話したらいいから」


 そう言って、宇宙は涼花の手を引いて階段を降りて行った。



「ねぇ、これって俺があんたを助けたって事になるよね? 」

 階段を降りながら宇宙が言った。

「そうなるのでしょうか? 」
「なるね。だって、あんたがあのままの状態であそこにいたら。間違いなく、重乃を突き落としたって断定されるからな」

「はぁ…」
「じゃあ…」

 フロアに出るドアを開け、そのまま入ってゆく宇宙と涼花。


 オフィスフロアに入ってきた宇宙と涼花。

「ねぇ、今日俺が助けた代わりに。俺の言うこと聞いてくれる? 」
「言う事? 」


 ピタッと立ち止まって、またニコっと笑った宇宙。


「ねぇ…。俺のセフレになってくれないか? 」

 はぁ? セフレ? 
 なにを考えているの? それじゃあまるで、重乃が言っていた不貞行為じゃない! 

 驚く涼花を、ちょっと意地悪っぽい目で見つめる宇宙。


「俺がもし、警察にアンタが突き落としたところを見た! って言ったら。間違いなく、アンタは捕まるよぉ」

「何を言うのですか? 防犯カメラがあるって、言ったじゃないですか! 」
「ああ、言ったよ。でも、あの場所は防犯カメラの死角だからぁ…」

「死角? 」
「そっ。だからさぁ、俺がちゃんと証言しないと。やっぱりあんたが疑われるってわけ」


 むちゃくちゃな屁理屈だ。
 でも…誰もいない場所で、状況を話しても警察は疑いをかけるだけだろう…。
 重乃は副社長の奥さんだから、気分次第では私が突き落としたと言われることも確かにあるだろうから、ここは言うことを聞いた方がいいのかもしれない。
 まだ、この会社でやらなくてはならない事があるし…。
 こんな事で足止めくらっているなんて…。

 でもセフレって…どうゆうつもり? 

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