副社長が私を抱く理由~愛と殺意の先に~

「大丈夫ですか? 」


 大通りに突き出されたと思われた涼花だったが。

 誰かに抱き止められ助かっていた。

 ゆるゆると目を開けた涼花の視界に映ったのは…


「危なかったですね。よかった、間に合って」


 生真面目な表情に、ちょっとだけ笑みを浮かべて涼花を抱き止めたのは、営業部の郷だった。


「あ…すみませんでした。…有難うございます」
「いえ、同じ同僚なので助けて当然ですよ。北里さん」

「え? 同じ職場とは…」
「ああ、ぼくは営業部ですから。なかなか会いませんからね」

 そう言いながら、郷は涼花を立たせた。

「改めまして、僕は篠山郷と申します。営業部でもう7年目です」
「7年も、すごいですね」

「いえいえ、それほどでもありませんよ。まだまだ下っ端ですから。それより、お怪我がないようなので、良かったらお茶でもいかがですか? せっかくお会いできたので。いつも、遠くで見ていました。とても綺麗な方なので」

「ごめんなさい、お気持ちが有難いのですが。この後、予定がありまして」

「そうなんですか、ぞれは残念です。またの機会にお願いしますね」
「はい、本当に有難うございました」

「お気になさらず。では」

 丁寧な礼をして、郷は去って行った。



 救急車のサイレンが鳴り響き、車に引かれた人を運んで行く…。

 車に惹かれ血まみれになっているのは…
 有香だった!
 
 何故、有香が車に惹かれてしまったのか…。


「びっくりした。あの引かれた人、急に飛び出してきたのよ…」
「すごい勢いて飛び出して来たわよね」
「自殺行為みたいだったわよね」


 目撃者が驚いて話している声が聞こえてきた。

「驚きましたよ、突然飛び出してきたんです。ちょうど、スピードが乗ってきた所で、突然飛びだしてきてブレーキも間に合わないくらいでした」

 車を運転していた若い男性が、警察に事故の様子を話していた。

 どうやら有香は自分から飛び出してきたようだ。


 遠ざかる救急車のサイレン。


 遠ざかってゆく救急車を、じっと見ている郷がいた。

「…あと一人だ…。まとめて、あの世に送ってやるよ」

 生真面目な顔の下で、郷はなにか怖い目をしている…。
 


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