エチュード〜さよなら、青い鳥〜

「…これは、リストだな」

漏れ聞こえるピアノの音に、広宗がつぶやいた。

「初音ったら、ちゃんとドアを閉めてないのね。私、閉めてくるわ」
「奥様、私が」

四辻が立ち上がる。
初音のピアノらしくない。音の粒は乱れ、鍵盤を叩きつけているだけで、楽しむとは程遠い。

それは、彼女が今抱いている感情そのものをうつしていると、夫妻にも四辻にもわかった。

「あの子なりに、本気だったのね。ただの思いつきじゃなかった」
「そうだったんだな」

広宗の言葉は、滑って頭の中に入ってこない。今の四辻の意識は初音のピアノに向いていた。



聞こえてくるのは、リストの超絶技巧練習曲第4番「マゼッパ」。感情の赴くままに、激しく強くピアノを叩いている。


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