エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「無理よ」

「学生だった初音は、コンクールに出場することも、ピアニストになることも無理だと言っていた。だが君は今、数多くのコンクールに出場して賞を獲得し、ピアニストとして活躍している。
君が教えてくれたんだよ?無理なことなんてないと。今度は俺が死にものぐるいで努力する番だ」


涼の言葉が、表情が、とてつもなくキラキラしている。


初音は、目を見開いた。
心の一番奥底に追いやって、封をした『恋』とか『愛』といった感情がゆっくりと湧きあがってきていることに、戸惑う。


「もっと多くの人に初音のピアノを聴いてほしい。いや、たぶん誰よりも俺がもっと聴きたい。出来れば大きな舞台で、最高の演奏を。それが俺が追い求めていた夢だった。やっと見つけた」


その言葉に記憶がある。就職面接で涼が初音にかけてくれた言葉だ。コンクール出場の為に背中を押してくれた言葉。

涼に、笑みがこぼれた。
嘘のない笑顔。懐かしい涼の笑顔に、初音の胸が、痛いほどに強く打つ。


「相変わらずね。あなたはいつもピアノのことばかり。私も私で、ピアノを上手く弾くことであなたを繋いでおけると思っていた。
だから、夢を追うと言って去っていったあなたと一緒にいることが出来なかった。私はピアノを選んだ。
『好き』と上手く言えなくて、演奏に気持ちを込めるしか出来なかったから。
あんな辛いのは、もう二度とイヤ。忘れたい」


初音はハッキリと涼を拒絶した。


「俺はずっと、君を忘れたことはないよ、初音」

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