エチュード〜さよなら、青い鳥〜
『四辻くん?悪いね、明日のことだろう?』

すぐに会長の声が聞こえた。

『一次予選の時と同じように、迎えに来てくれるかい?』

会長から指示された時間をメモしながら、四辻は、ハイと返事をした。


『二次予選には行けなくて非常に残念だった。
本選、初音はプロコフィエフを選んだんだね。てっきりショパンを選ぶと思っていたんだがな。
私はプロコ3番といったら、マーシャ・アルジェリーナの演奏が好きだなぁ』

「マーシャ・アルジェリーナですか?早弾きのマーシャ・アルジェリーナのリズム感は最高ですよね!
彼女のプロコ3番はクラシックというより、映画音楽のような感覚で聴いてしまいます」

『聴いたことあったか、さすが四辻くん!君とは、息子より話が合うなぁ。
初音のプロコも楽しみだ。明日はよろしく頼むよ』

電話が切れた。


四辻は、受話器を戻すと、一つ大きなため息をついた。

会長とピアノの話をするのは楽しい。今も、お気に入りのピアニストの名前が出てきて、つい声が弾んでしまった。

だが、電話を切った今、四辻の脳裏によぎるのは福岡陽菜の声だ。



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