【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「――毎日、誰よりも長く見つめていたい人のことなら、どんなことでもわかりたくて必死になるでしょう。柚葉さんがどれだけ真剣に打ち込んでくれているかなんて、少し見ているだけで痛いくらいにわかる」
「りょう、」
「……だから家で俺の帰りを待っててって、お願いするの、我慢してるんですよ」
苦笑のような、砕けた笑みに触れてしまった。目の前にいる人が、もう一歩踏み出してくれる。
「せめて、上司としてでも守らせてほしい」
すぐ近くで、私を見つめる瞳がきらきらと瞬いていた。言葉なくうなずいたら、とろけそうな笑みに視線が囚われる。
「ゆずは」
あつい声と同時に顔を寄せられて、流れるように瞼を下ろす。
「あ、」
その束の間に、13時のチャイムが鳴ってしまった。
「……残念」
顔を寄せられたまま、至近距離で目が合う。
狼狽える私の目を見た遼雅さんが、きれいに整えた笑みを作って「それでは、さっきの件は私に任せてください」と言ってくれた。
ただ盲目に、逆らうことも忘れて頷いた。
私の反応を見たいつもの完璧な上司が、優雅な足取りで役員室へと歩いていく。
私はただ、その後ろ姿を呆然と見つめて、しばらくしてから、ようやくデスクに向かった。
橘専務が今日の予定をほぼすべて前倒しして、午後をすべて書類作業に切り替えたと聞いたとき、さすがに私も唖然としてしまっていた。
あれだけの仕事を、どういう方法でショートカットしたのだろう。
橘遼雅は完璧だ。