【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「はい」
「……佐藤です」
「どうぞ」
いつもと同じく、やさしい音程で許可されてしまった。
今更引っ込みもつかない。
ドアを開いて足を踏み入れれば、今日も橘専務がまっすぐに顔をあげてくれる。
「うん? 何か問題がありましたか?」
「あ、いえ。……すこし時間ができたので、たまにコーヒーでもいかがかと」
今自分の内情で起こった通りに告げたくせに、すこし言い訳がましい。
気恥ずかしくなって俯いたら、ややしばらくしてから専務が「ありがとう。うれしいです」と声をかけてくれた。
デスクに近づけば、広げていた書類を横に整頓した専務が眼鏡を外そうとしているのが見える。
すこし休憩するつもりになったらしい。息抜きになるならよかった。功を奏したことを確信して、橘専務の右手前に、そっとカップを置いた。
専務が横に置いた資料がちらりと視界に入ってくる。それはたしかに私に送られてきていた渡総務部長からの業務メールだ。
“今日中に”という文字に下線が引かれている。すでに動いてくれているらしいことに気づいて、視線が固まってしまった。
当然、聡い人が気づかないわけもない。
「柚葉さん、すこし……、10分だけ休憩にしませんか」
そうやって笑うところは、すごく悪い人だと思う。
「たち、」