【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】

「抱きしめられたら眠れるって気づいたのは、その時ですか」

「あ……」


ふいに、初めの設問がなぜ「ありますか?」ではなく「ありますよね?」だったのか、理解できてしまった。

私がこの解決を導き出すには、抱きしめてくれるような相手が、必ず必要になる。

問いかける遼雅さんの目が、黒く光って見えた。いつもより、濃く色づいているような気がする。それはまるで、追い詰める者の瞳のようだ。

捕らえられたら、逃げ出せない。


「ううん……、そう、ですね。ただ、本当に気付いたのは、姉と眠っているときです」

「お姉さん?」

「はい、萌お姉ちゃんは、身体がぽかぽかしてるんです。でも、うーん。今は遼雅さんが一番かなあ。遼雅さん、平熱も高そうですよね」


元カレがどれくらいの熱だったのかは、うまく思いだせない。

それくらい姉と遼雅さんの腕の中は、心地がいい気がする。遼雅さんは落ち着く人でもあるから、他の人と比べるには、あまりにも違いすぎる。


「……柚葉さんは」

「はい?」

「結構、無自覚に人をあまやかしますよね」

「ええ?」

「どんどん欲張りたくなる」


瞳のあついきらめきが、すこしも消えてくれない。

どこまでも鮮やかになって、見せつけられているようにさえ錯覚してしまう。


遼雅さんのあまやかしは、毒だと思う。


「よくばる、とは……?」

「例えば、全部を俺の記憶に塗り替えたい、とか」

「ぬりかえ?」

「――俺にもあまやかさせてください、かわいい奥さん」


今日の旦那さんは、まだまだあまやかし足りないみたいだ。
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