【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
仕方なく柚葉のマンション近所にある蕎麦屋で、昼飯を食べていたところだった。
柚葉はちょっと失敗したことを打ち明けるような気軽さで、俺にそれを告げてきた。
言われている意味は、すこしもよくわかっていない。
一瞬黙り込んで、柚葉が首をこてりと傾げたところで「それやめろ」と声をあげていた。
もはや条件反射になっている。
咎められてぴしりと背筋をただした柚葉が、今度は箸を置いてから「橘さんなんだけど……」と軽率に話を続けてくる。
たちばな、タチバナ、立花、橘。
「……まさか、お前」
「うん?」
かわいらしい顔立ちは、どんなものでも惹き寄せる。
いっそ罵りたくなるような鈍感だから、つねにハラハラさせられている。
親や兄弟なんてものじゃない。飼育員のような気分でさえある。
「橘専務、じゃねえだろうな? 橘遼雅」
「あ、わかる? そう、遼雅さんなんだけど」
ほっとして、楽しそうに笑われてしまった。
「……」
もう言葉もない。
何が楽しくて、会社の出世頭のとんでもない美丈夫と結婚する話を、蕎麦屋で聞かなくてならないのだろうか。
「……することになっちゃった、って、なんだ? 俺、付き合ったって聞いてねえけど」