【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
にへにへと笑って、あいつは俺に言ってきた。
手を取って拙いダンスを踊るとき、柄にもなく馬鹿みたいに緊張していたことを覚えている。あの日の柚葉の冷えた指先の柔らかさが、まだこの手に残っているような気がする。
近づいたと思ったら、簡単に突き放される。
中学に入って、知らない面々と顔を合わせるようになったら、柚葉の周りは一気に華やいだ。
見目のいい男が競うように集まって、次から次へと柚葉の隣にまとわりついていた。いつも周りの女子が蹴散らして、柚葉は困ったような顔を浮かべながら輪の中心にいた。
知らない男に声をかけられているのを見て「あいつ誰?」と聞けば、よくわからないらしい柚葉から「おともだちかなあ」と要領を得ない答えが返ってくることもしばしばあった。
——誰一人として、本当の意味で、柚葉の心に残っている者はいない。
求められることばかりで、求めることをしない人間になっているのだとわかったとき、自分の感情がひどく無意味であるような気がした。
いくらこちらから差し出しても、柚葉が俺だけに受け取ってほしくて差し出してくることはない。
俺がそうしてほしいのだろうと考えて、俺のために差し出してくる。
そこに柚葉の願望はない。
そうして、長い初恋を終えた。