かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


無理しているようにも見えないし、本当にどうでもいいと捉えているみたいだった。

こういう、器の大きさを感じさせる大人の男性が周りにいないだけに新鮮だった。
玄関先での会話では好戦的に感じたのだけれど、私の気のせいだったのかな。

「気を遣わなくていいよ」と遠慮する桐島さんを振り切って、ふたつのコップに麦茶を注ぐ。
氷がパキパキと音を立てるのを聞きながら、チラッと桐島さんに視線を向けた。

アーモンド形した涼しげな目。すっと筋の通った鼻に、さらさらとした黒髪。前髪は眉にかかるくらい、サイドは耳半分が隠れるくらいで、社会人として一般的な長さだ。

私の視線に気づいた桐島さんは、形のいい唇の端を上げ笑みを作る。

噂されるとおりの美形だと思った。
すごく綺麗な顔立ちをしている。

男性の色香のようなものを感じるのは、重ねてきた年齢によるものなのだろうか。

こちらも陸や同期から感じたことがなく、桐島さんがまとう大人の雰囲気に少しだけ緊張しながら、テーブルにふたつのコップを置いた。

「それで、桐島さんも陸と約束してたってことでしたよね。すみません、陸、人との約束とかすぐ忘れるんです」

うちを訪ねてきたってことは、この部屋で待ち合わせていたんだろう。
仕事帰りにわざわざ足を運んでくれたのに申し訳ない。

謝った私を、「いや、相沢さんのせいじゃないよ」と、桐島さんがフォローする。


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