かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「曖昧にしておくのも気持ち悪いから最初に言っておくけど、陸とはただの友達だから」

安心させるような微笑みで言われ、苦笑いを返す。

「大丈夫ですよ。本気でそういう心配をしてたわけじゃないですから」
「そう言いながら相沢さん、噂を少しは信じてたんだろ?」

苦笑いで指摘される。

雰囲気は軽くてやわらかい。だからか、初会話だけど話しにくさは感じなかった。
低い声がなめらかに鼓膜を滑り心地いい。

いつだったかエレベーターで知らない女性行員が『桐島さんの声を思い出しただけで耳が溶けそうになる』とテンション高めに話していた時、内心〝本気で言ってる……?〟とひいたことを心の中で謝る。

たしかにこの声は私も好きかもしれない。溶けはしないけれど。

「面倒だし噂くらい好き勝手にしてくれて構わない……って放っておいたのが悪かったのか。まぁ、そのうち話題も移るだろうけど」

本人からしたら相当面白くない噂を立てられているというのに、桐島さんはさして気にしている様子を見せずに軽く笑い流す。


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