かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
昔はそこまでのレベルではなかったことを考えると、たぶん、学生の頃の出来事が関係しているんだろうなぁとは思う。
陸のせいじゃないと私が何百回と言ったところで、きっと陸の中の罪悪感みたいなものは消せないのだろう。
……私の中から、完全にはあの出来事が消せないみたいに。
まったく、人との約束はポンポン忘れるくせに……と呆れていると「呼び方はずっと〝陸〟?」と聞かれた。
ふたつ歳の離れた兄を呼び捨てにするのは確かに珍しいかもしれない。
「はい。こどもの頃からの癖なんです。両親も陸もなにも言わなかったから、結局そのまま。だからか、他の子よりも〝ラ行〟言えるようになるの早かったんですよ。なんて、自慢みたいになっちゃいましたけど」
笑みを浮かべると、桐島さんは、ふっと表情を和らげる。
私に合わせてくれたとも、思わずもれてしまったともとれるような柔らかい笑みに、あれ?と思う。
その柔らかい笑みが、会社で見るものとは違う気がしたからだった。
少しの違和感を抱いたものの、行内では見かける程度だし、そこまで意識して見てきたわけでもない。
私の気のせいかなと片付けていると「相沢さんは、昔からそういう性格?」と聞かれる。