かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「い、え……たまたま会って、夜道を心配して送ってくれただけなので」
「その割には酒井部長の背中を名残惜しそうに見てたけど」
「あれは、その……失礼ですけど、部屋を知られるのが嫌だったので、酒井部長が完全に見えなくなってからマンションに入ろうと思って見ていただけです。いくら陸と同居していても、部屋を知られるのはあまりいい気がしないので」
友達でもない人には知られたくない。それが、下心を隠し持っているのがバレバレの酒井部長相手ならなおさらだ。
でも、そこまで言ったら変な心配をされそうで黙っていると、桐島さんは「本当にそれだけ?」と、疑るような声で聞いた。
「はい。……あの、腕を、その……」
ずっと後ろから抱き寄せられている状態では、会話が頭に入ってこない。
だから困って言ったのに、桐島さんは「はー……」と深いため息を落として、そのまま私の肩に顔をうずめてしまった。
桐島さんの顔がすぐ横にある体勢に、息を呑む。
桐島さんの黒い髪の先が頬にあたっていた。
「ひとりでなにして遊んできたの?」
とてもじゃないけれど、桐島さんの方は見られず、前を向いたまま口を開く。
つい一時間ほど前のことなのに、私はなにをしてきたんだっけ……と考えなければならないくらいには混乱していた。