かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「映画を観て……あと、欲しい本があったので本屋さんに」
「他の男に声かけられたりしなかった?」
「しません」
心配している声で問われ、ピシャリと答える。
陸もだけど、桐島さんも案外心配性だな、と思っていると桐島さんがもう片方の腕も私に巻き付けてくる。
ギュッと、完全に後ろから抱き締められている状況に心臓が飛び跳ねた。
「あまり心配させないで」
艶のある声が私の耳元で言うものだから、背中がゾクッとした。
数秒私を抱き締めていた腕が解かれる。
桐島さんの体温はなくなったのに、背中にも肩にも桐島さんの感覚が残っていたし、耳が熱くて仕方ない。
動けずにいる私の肩を掴んで、クルッと自分に向き合わせるように方向を変えさせた桐島さんが、私の顔を覗き込むようにして見る。
緊張から目を泳がせると、桐島さんは表情を緩めて私の頭を撫でた。
「お土産にシュークリーム買ってきたから、よかったらあとで食べて」
「え……あ、ありがとうございます」
「じゃあ、また」
桐島さんが駅の方に歩いていく。
もう、後ろ姿も小さくなったっていうのに、耳に残る声も頭を撫でた手の温かさも、場を包む甘い雰囲気も……そして、胸のドキドキも。
なにもかもが消えてはくれなくて、しばらく動くことができなかった。