東京ヴァルハラ異聞録
だけど、その話で久慈さんは何かを察したようで、持っていた箸をテーブルの上に落としたのだ。


「おじいちゃん……まさか。梨奈さん、そのおじいちゃんは、ハンチング帽を被っていなかったか?」


「え、ええ。被ってたわね。人の良さそうな顔をしてたけど」


「やっぱりか……だとするとまずい。最近はあまり見ていないから安心していたが。星野延吉が動き出したのか」


そのおじいちゃんが星野延吉だとはわかるけど、久慈さんが恐れるほどの人なのか?


ランキングの上位にいる秋本の方が、よほど怖いと思うんだけど。


「あのおじいちゃん、そんなに強そうには見えなかったのに……やっぱり、見た目ではわからないものね」


「いや、そうじゃないんだ。延吉自身はそれほど強くはない。10回戦えば、俺が10回勝つだろうけど、あいつは……」


久慈さんがそこまで言った時、店のドアが開いて、篠田さんが入って来たのだ。


手には何か布のような物を持っていて、俺達の方に来ると、それを沙羅の頭の上に置いた。


「わっ。何これ」


「『黒いローブの死神』だろうがお前は。素顔晒して動き回られちゃあよ、嵐丸みたいにお前に惚れるやつが出てくるかもしれないからな。それを着てろ」
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