東京ヴァルハラ異聞録
「よくわからないけど……人から借りた力だとしても、それは昴くんの力なんだよ。だからそんなに落ち込まないで」


そっと、沙羅の頭が俺の背中に付けられたのを感じた。


温かい……何か、心が温かくなるような感覚。


恵梨香さんといても、悟さんといても感じない、心が満たされるような感覚が、沙羅にだけある。


「沙羅……本当に会いたかった。沙羅を取り戻したくて、強くならなきゃって思って」


振り返り、その温もりを求めるように、俺は沙羅を抱き締めた。


離したくないという思いは確かにあったけど、ちっぽけな俺の存在を認めてくれた沙羅に、もっと認めて欲しいと思ったから。


「わ、わわっ。す、昴くん……どうしたの?大丈夫だよ。沙羅は昴くんの傍にいるから。ね?」


「うん……」


それでも、沙羅を離したくなくて、しばらくそのまま沙羅を抱き締めていた。


高山真治の力じゃない……結城昴の力を見ていてくれる沙羅が愛おしい。


だけどそれを言葉に出来るほど、俺は強くなくて。


わがままな子供のように、沙羅を抱き締めたまま離さなかった。


この時からかもしれない。


俺の中で、高山真治の力を否定し始めたのは。
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