Sister Cherry! ~事故った妹は今日も事故る~ 【シーズン2】
【此花さんは学園の平和を守っている】

37.此花さんは学園の平和を守っている【調査開始】


【此花さんは学園の平和を守っている(1/2)】

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 中学も二年になって、早2ヶ月が過ぎました。たいていのクラスメイトは、晴れ晴れとした気分ではないにしても、いつも生活しているようにそろそろ夏……の前に鬱陶しい梅雨があるけど、季節の変わる時期を迎えています。

 僕の名前は(まー……覚えてもらう必要はないですけど)、西中島南方(にしなかじま・みなかた)、14歳。僕の場合は新しいクラスに馴染めるか、期待と不安で頭がいっぱいの二か月間でした。

 一人の、不思議な女の子に出会うまでは……


 ちなみに僕の変わった名前は、父さんの好きな偉人の名字から取ったそうです。熊楠にされた方が良かったかは正直微妙だけど、あだ名が小中一貫して“ナンポー”になることくらいは想定して欲しかったです。

 ただ、小学生の時に僕に“トロピカル”と命名し、恵方が“南西”の節分に巻き寿司を僕に向けて食った池田君は、センスがキレてると今だに思います。


 さて、そんな僕には、今クラスで気になっている女の子がいます。

 その子の名前は、此花桜子(このはな・さくらこ)さんといいます。


 あ、気になると言っても、“そういう意味”じゃないです。確かに此花さんはクラスでも一番か二番目にカワイクて、密かに狙ってる奴も多いんですけど、クラスでも一番か二番目に背の低い(チビの)僕には正直釣り合わないと言うか、高嶺の花と言うか、それだったら此花さんと仲のいい都島さんの方が、ちょっと気になると言うか……い、いや、そんなことはどうでもいいんです!

 僕が此花さんのことが気になるのは、此花さんがカワイイからではなくて……


 どうやら、此花さんが学園の平和を守っている……らしいからなのです。



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 【西中島君の調査レポート①】


 僕が此花さんに関心を持つようになった理由……を話す前に、少し彼女のことを説明しなくてはいけません。


 此花さんは元々、抜群の容姿に加えて女子バスケ部(じょバス)の部員としても活躍していて、クラスでも目立つ方の女の子でした。
 ところが此花さんはある出来事から、よりますますみんなの注目を集めることになります。けれど、それはあまりいいこととは言えなくて……

 此花さんは、事故で記憶喪失になってしまったんです。

 まさか、漫画か小説の設定でもないだろうに、などとお思いかもしれませんが、事実は小説より奇なりと言います。此花さんが記憶をなくしたのは、紛れもない事実なのです。

 幸いなことに、最近になってようやく此花さんの記憶喪失は回復し、今までのことを思い出すことができたそうですが……

(けど、記憶喪失って創作上の病気じゃなかったんだなあ……)


 そんな災難に遭ってしまった此花さんですが、記憶は失っても明るさは失わず、持ち前の性格の良さもあって、記憶がなくてもまたすぐにクラスに打ち解けていきました。

 残念ながら僕は以前も今もあまり絡みはないんですけど(まあ、そもそも女子と気軽に絡めるタイプでは、ないんだけど)、此花さんのそういうところには素直にすごいと感心します。

 もし僕が此花さんの立場だったら、とてもあんなふうに誰も知らない教室には戻って来られません。
(うーん……此花さんは強いから自分に自信が持てるのか、自分に自信があるから強いのか……)


 それとも、また別の強さの秘密があるのか――…… 


 記憶のない此花さんは、事故る前に仲の良かった平野さんと都島さんとすぐ打ち解けて、変わらず三人でつるんでいるようでした。

 ところが、そんな三人の間に、ある事件が起きたのです――……



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 【西中島君の調査レポート②】


「やっぱり来たね……サナ、チー……」
「くくく……逃げ出さなかったことだけは、褒めてやるよ、桜子お……?」
「覚悟が出来た、ってことだよね……? それとも、“諦め”かなあ?」

 窓からの舞い込む風が、机に手をついて立つ此花さんの前髪を乱し、キッとした眼差しを見え隠れさせる。彼女を取り囲むよう、平野さんは挑発的に、都島さんは小悪魔的に笑って対峙する。

 親友同士だったはずの三人の、火花を散らすような緊迫に、クラスの誰もが息を飲んだその光景を、僕は今でもありありと思い出すことができます。


 そのやり取りの後、此花さんは呼び止めた東小橋(あずまおばせ)君に寂しそうに微笑んで、
「アズマ君……心配しないで。あたしは……きっと帰って来るから――……」
そう言い残すと平野さんと都島さんを引き連れ、旧校舎の中庭へ場を移しました。

 後を追うことのできる人はいなかったし、黙り込む東小橋君にも、三人が戻ってからも、誰も何も訊くことはできませんでした。この僕も、含めてですが。
(と言うか、オタクキャラなのに最近此花さん達と仲が良さそうな東小橋(オバセ)君、うらやましい……)
まあ、それも置いておいて。

 この時からクラスでは、こんなことが噂されるようになったのです。


「此花さんは何か強大な力から、学園の平和を守っているらしい」


 それこそ、漫画か小説の設定でもないだろうに、などとお思いでしょうが、僕がこの噂をどれくらい信じているかと問われれば、声を大にして答えます。

「そんなの、ゼッタイ本当に決まってるじゃないか(じょのいこ)!」、と。


 ちょっとカワイイけど平凡な女子中学生、“此花桜子”は世を忍ぶ仮の姿! 此花さんは学校の支配を目論む影の勢力と、日夜人知れず戦い続ける美少女エージェント! 或いは能力者! そうに違いない!
(敵はやっぱり“生徒会”……それとも糸を引いているのは校長? そのバックには裏教育委員会が?!)

 まさか、一見平和な僕の学校が、生徒会と裏教育委員会に牛耳られた、権力と歪んだ理想の渦巻く伏魔殿だとは!
(い、いや……生徒会長は此花さんにいずれ倒されて、裏教育委員会と戦う頃には心強い仲間になっているはず……)

 はあ……はあ……こ、これは失礼しました。


 僕はこう見えて、学校ではひた隠しにしていますが、漫画からラノベ、深夜アニメに至るまで “その手の設定”が大好物なのです。毎日登校中にも授業中にも、
(もし本当に、この学校で人知れない戦いが繰り広げられているとしたら……)
入浴中でも布団に入って眠りに落ちるまでのひと時にも、
(僕はどういうポジションで、どういう“能力”を持ったものか……)
そういう妄想……“設定”を考えるが僕の秘密のクセなのです。

 僕なんかはチビだから、あまり真っ向からバトル系の能力より、後方支援のサポート系か、ちょっとトリッキーでここぞという時に見せ場を作る能力の方が……


 いや、僕の話はいいんです。


 此花さんが、もしも本当に組織に対抗する人間で、誰も知らない戦いに身を投じているのなら、僕は……此花さんのことが知りたい!

 僕は主人公というタイプではないし、今だって何の力もないけど、そうした特別な人や事件に近づいて、巻き込まれてしまう一般人……そのポジションとして結構キャラが立っていると思うんです。

 そういうわけで僕は、此花さんと都島さん達の対決を見て以来、実は密かに調査を開始しているのです――……


 とは言いましても、僕は素人、相手はプロ。下手に嗅ぎ回ってはすぐに勘づかれるだろうし、学校からの帰り道、電信柱の陰からスッと此花さんが現れて、
「余計なことに好奇心を持つと、命を落とすことになるわよ?」
と忠告されたり、ましてや放課後の人気のない廊下で音もなく背後に立たれ、
「あんまり目障りなようなら、あたしがアンタを殺すわ」
などと言われた日には……

(むしろ、フラグか)

 これは、そこを敵に襲撃されてなし崩し的に関係者になるパターンです。


 しかしながら此花さんに警戒されてしまっては元も子もないので、差し当たり僕が取り得る有効な手段と言えば、“遠目からそれとなく見てる”のが精いっぱいなのですが……


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