溺愛フレグランス


その日の午後は、いつもより郵便物が多かった。戸籍謄本や住民票を申請して郵便での受け取りを希望する個人主や弁護士や行政書士からの申請、その他もろもろを私が手際よくパソコンに打ち込みをしていると、窓口業務の職員さんが私を呼びに来た。

「安村さん、知り合いの方がロビーでお待ちです」
「私ですか?」

郵送チームの皆も不思議躁な顔で私を見ている。
市役所にそれもわざわざ名指しで来客なんて、今まで一度もなかったから。
私は忙しい中抜け出す事に気が引けながら、早歩きでロビーへ向かった。
一体、誰なの?とちょっと不機嫌そうな顔をしながら。

ロビーは多くの人で混雑していた。でも、その中で、私は、私を待ちわびる人間を一秒で見つけてしまった。
太田朔太郎、奴は面白半分に笑っている。

「晴美、久しぶり!」

朔太郎の声はいつもより大きかった。
晴美って私を呼び捨てをする人間は、私の周りにはこの朔太郎しかいない。
私の天然おとぼけキャラのせいで両親だって私の事をちゃん付けで呼ぶし、友達も親戚もほとんどが晴美ちゃんかはーちゃんと呼ぶかどっちかだ。
私は返事をする前に、朔太郎の腕を掴んで正面玄関の外へ連れ出した。


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