無口な彼の熾烈な想い
「こら、惣太郎、鈴先生を独り占めするなよ。もう譲渡会は始まってるんだからな」

絢斗と礼治はしばらくネコカフェの話で盛り上がっていたのだが、突然、四ひきの子猫たちが入れられているゲージの前で話仕込んでいる鈴と大学生(名を惣太郎というらしい)を見て礼治が叫んだ。

二人の後ろには、話しかけたそうにしている男女の若いカップルが立っていた。

「ごめんなさい。気が付かなくて。どの子に興味を持たれましたか?」

慌てる惣太郎を尻目に、鈴はいつもの鉄壁の(作り)笑顔で振り返って対応を始めた。

「惣太郎は鈴先生が好きすぎて困る。あ・・・もしかして瀬口さんも?」

惣太郎が鈴に好意を持っているという礼治の言葉に、思わず眉間にシワを寄せた絢斗を見て礼治はすかさず尋ねた。

「・・・」

無言の絢斗に

「無言は肯定・・・ですかな?親としては鈴先生のような可愛くて賢い女性にお嫁に来てもらいたいけど、瀬口さんみたいなイケメンには、家の惣太郎がかなうはずないわな」

のほほんとした口調であるが、目は笑っていない。

おそらくこれは本心で、茶化しながらも実際は絢斗のことを牽制しているのだろう。

「ねえ、ねえ、鈴先生・・・」

甘えん坊キャラの惣太郎は、絢斗と真逆のキャラだ。

そんな惣太郎に鈴も笑って対応している。

動物愛護活動を目的としているとはいえ、この河上家と鈴は家族ぐるみの付き合いだ。

絵に描いたような平和で和やかな家庭。

鈴にとっては居心地のよい場所に違いない。

だが、薄幸の絢斗とて、鈴の隣にいる暖かさを知ってしまった。

今さら誰にもそのポジションを譲るつもりはない。

絢斗は仲睦まじく?子猫を紹介する鈴と惣太郎を見つめながら、チョビビの首を抱き締めていた。

その様子を、隣で礼治が楽しそうに見ていることなど気付かずに。
< 130 / 134 >

この作品をシェア

pagetop