無口な彼の熾烈な想い
「いろいろとお世話になりました。こちらをお受け取りいただけますか?」

会計を終えた綾香は、高級なセカンドバッグの中から一枚の封筒を取り出した。

季節柄を意識したのか、赤地の封筒に、リースのシールが貼ってある。

「これは?」

「どうぞ御開封下さい」

鈴が促されるままに封筒を開けると、Flower of Kent at EASTの名前のかかれたディナーチケットが3枚入っていた。

2枚はペアチケットで、1枚はシングル用のようだ。

「インターネットでこちらの動物病院を検索いたしましたら皆様3名のスタッフ名が書かれておりましたので人数分ご用意させていただきました」

鈴と兄夫婦が驚いていると、そう、笑顔で綾香が答えた。

絢斗のいる意味はもはやないのではと思われたのだが、

「珍しく絢斗がお礼はしなくてもいいのか・・・?何て言い出しまして。よほど鈴先生のことが気に入って・・・いえ、先生の適切な処置の素晴らしさに感動したのだと思った次第で。もちろん私たちも感謝しております」

「いえ、卵詰まりの中でも簡単な対応でしたし、何より仕事ですから過分なお気遣いをお受けするわけにはいきません」

「こちらはお得意様に配っている招待券なんですよ。時にはお得意様以外の方々の率直なご意見を伺って何かしらの改善をはかっていかないとどんなに流行りの店でも潰れてしまいます。私たちを助けると思って、是非、当店に足を運んでいただき我が愚弟の料理をご賞味くださらないかしら」

と、流れるような口調で綾香は言い立てた。

チラリと兄夫婦を見ると、キラキラ瞳を輝かせすでに乗り気だ。
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