無口な彼の熾烈な想い

「ええ？いいなあ。花菜もせんせーとごはん食べたいな。せんせー、ケントちゃんのお料理はとってもおいしいんだよ」

ピーちゃんの相手に飽きた花菜も援護射撃に加わるようだ。

ツンツンデレなし瀬口はさぞや迷惑だろうと鈴はチラリと彼を見やるが、絢斗はじっと鈴を見つめたまま動かず無表情のまま立っていた。

「よろしいんですか？我々としては巷で話題のお店での食事なんて願ったり叶ったりですが、三人揃っての食事というのは、職業柄難しいかと・・・」

そうやって、表面上、困ったような顔をして告げる兄・千紘の言動だが゛どんなことをしてでも行きたい゛という腹の中が透けて見えるように浮かれているのが見てとれた。

しかし、急患を受け付ける病院側の人間としては間違ったことを言ってはいないので実際は歯痒いのだろう。

基本、日曜日と祝日、年末年始とお盆、ゴールデンウィークなどは休みとしてはいるが・・・昨夜のピーちゃんのように飛び込みで来る急患が不定期に発生するため、そうした緊急の電話には３人のうちの誰かが対応できるようにしているのだ。

「ええ、そうだと思っていましたよ。だからこそ、感謝の意もかねて、鈴先生はうちの絢斗にエスコートさせようと思います。平野先生方はご夫婦ですよね？事前にご予約頂ければいつでも接待させて頂きますので是非ともスケジュールを調整下さい」

全員平野先生なのだが・・・。

兄夫婦はブンブンと嬉しそうに頷いているが、鈴には何でそうなるのか全く理解できない。

「鈴先生はお一人でレストランでフルコースとかお嫌でしょう？」

・・・全くもって嫌ではない。

なんなら焼き肉店にでも飛び込みで行けるくらいにお一人様をエンジョイしまくっているというのにどうした誤解だろう？

鈴がそう反論しようと口を開けた直後、

「そうなんですよ！鈴は寂しがり屋の甘えん坊で誰がと一緒でないと有名料理店で食事なんてできません」

「そうなのよね。ねえ、鈴ちゃん。イケメンシェフのエスコートでお食事なんて長年の夢が叶うじゃない。是非ともお受けしましょうよ」

と、千紘と玖美が被せぎみに畳みかける。

゛寂しがり屋の甘えん坊？゛
゛イケメンエスコートの食事が夢？゛

『誰がじゃ！』

驚き、呆れた鈴は、咄嗟に否定の言葉も出ずに立ち尽くすのだった。