無口な彼の熾烈な想い
オーナーシェフ:瀬口絢斗

そう書かれたクールでお洒落な名刺には、彼のものと思われる携帯電話番号とSNSのコード番号が書かれていた。

おそらく彼は強引な姉に無理強いされたに違いない。

干物に近く色気も愛想もない女性である、と自負している鈴だ。

こうした社交辞令を勘違いするほどワイてはいないのだ。

約束はしていない。

返事すらしていないし、同意も示していなかったはずだ。

美味しい創作料理は気になるが、それ以上にあの無口な3次元イケメンと二人きりなんて耐えられそうにない。

゛これは無視していいやつだな゛

そう思った鈴は、綾香と絢斗からもらった名刺を、営業で回ってくる業者の名刺フォルダーにしまうと院内の片付けを始めた。

こうして終業に向けた片付けに集中する鈴は、受付カウンターでコソコソと何かに勤しむ兄夫妻の動きには、全く気付いていなかった。

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