無口な彼の熾烈な想い
腕に柔らかい何かが当たっている。

もちろんそれは言うまでもなく鈴の胸なのだが、恥ずかしがりや?の絢斗は自分から指摘することはできない。

ゲームならこれはラッキースケベイベントと呼ばれるものなのだが、ゲーマーではない絢斗には、もちろんそんな概念は存在しない。

コハちゃんを愛でることに夢中な鈴は、思う存分コハちゃんを堪能するまで、絢斗が耳まで赤くなっていることに気付かなかった。

絢斗にとっては言うまでもなくラッキーで至福の時間であったのだが、いつの間にか口を閉ざしてし黙り込んだ絢斗に、鈴は怒っているのだと勘違いをして腕を引いてしまった。

もったいない・・・。

「ご、ごめんなさい。近すぎましたね。今後はうっかり近づきすぎないようにします。」

フクロウやミミズクを通して、すっかり絢斗と打ち解けたものと感じていた鈴には、再び訪れだ沈黙が辛かった。

無遠慮に近づきすぎて絢斗に嫌われては、残りの時間が苦痛になる。

ただそれだけではない、この気持ちがいったい何なのか、鈴にも良くはわからなかった。

゛せっかく仲良くなれたのだから適度な距離感を保ち友情を育んでいくのがベスト゛

最終的には、そう自分を納得させることで気持ちを整理した。

しかし、やましいことだらけの絢斗は、鈴に不要な距離を取られることなど全くもって本意ではない。

「いや、俺には気を遣わなくていい。そのままの鈴でいてくれ」

そう言って、すかさず絢斗は鈴の申し出を断ったした。

それは、絢斗がただ何気なく、ただ単にラッキースケベイベントの機会を自ら失いたくはないという、どちらかといえば邪な心で漏らした言葉だったのだが。

これまで、両親から存在をうやむやにされることの多かった鈴にとって、そんな絢斗の何気ない言葉が未来に希望を与えるなど、思ってもみなかった。
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