離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 唖然として見つめていると、小太りな男性が高城の腕を振り払った。

「失礼な。私はこの女性がひとりで困っていたからエスコートしてあげようと思っただけだ」

「エスコートはしてあげるものではなく、女性を尊重するものです。このような場でかまわず女性の手を掴むあなたにはわからないかもしれませんが」

 間髪を容れず小太りの男性に言い放った高城は、すっと右手を上げる。その高城のもとに、グラスを載せたトレーを持つボーイがやって来た。

「こちらの男性にお水を」

 高城がボーイに言うと、怒りに震えた小太りの男性は「結構だ」と立ち去っていく。

 肩をいからせる小太りの男性のうしろ姿を見届けた高城は、ボーイに「もう大丈夫です。お仕事の邪魔をしてすみませんでした」と告げた。

 ボーイが綺麗な姿勢で腰を折り、離れていく。
< 10 / 204 >

この作品をシェア

pagetop