離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 私が喉の奥に込み上げてきた不快感を無理やり呑み込もうとしていたところで、私の腕を取っていた男性の腕を誰かが掴むのが目に入ってきた。

「彼女が嫌がっているのがわかりませんか」

 私と小太りの男性の間に、凛とした低い声が静かに響く。

 小太りの男性の腕へ伸びてきた濃紺のスーツの腕を辿るように声の主を見上げた私は、驚きのあまり大きく目を見開いた。

 ……高城(たかぎ)悠人。

 私の鼓動がドクンと跳ねる。

 高城が、どうしてここへ。

 予想もしていなかった登場に、私は息を呑んだ。

 額を出すように無造作にセットされた黒髪。眉のキリッとした切れ長の目もとが印象的で、左目の下にほくろがある長身の男。

 この男こそが、私が八年以上捜し求めていた男だ。あの高城悠人が目の前にいる。
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