離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 そう思い私がトレーを抱え、近づくと、麻有ちゃんは私の手を引き柱の陰へと引っ張り込む。

 食器がガタガタと音を立て、私は崩れないようバランスを取ろうと慌てふためいた。

「ちょっと、麻有ちゃん。なに、どうしたの?」

 なんとか持ち直した私は、なぜか隠れるように身体を縮こめている彼女に言う。

 そんな私を他所に、眉根を寄せて真剣な顔をしていた麻有ちゃんが柱の陰から頭を出し、お客さんのいるテーブル席のほうを覗いた。

「さっきからあのお客さん、ずっと梅原さんを見てるんです」

 一点を見つめながら真面目な声で言う麻有ちゃんに、私も彼女の視線の先を追う。

 そこには出入口付近のふたり掛けのテーブル席でひとりコーヒーを飲んでいる、四十代くらいの男性がいた。
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