離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 白のロングTシャツにデニム姿の男性は、猫背の姿勢でとっくに冷めているであろうコーヒーをちびちびと啜っていた。

 やはり以前に見かけた覚えはない。特徴的だから一度目にしたらなかなか忘れないだろうし、常連さんではないよね。

「まぁお店の中だし、話しかけられているわけじゃないから。心配してくれてありがとう」

 私は麻有ちゃんに微笑みかける。彼女はどこか納得のいかなそうに眉尻を下げていたけれど、最後には「なにかあったら言ってくださいね」と漏らした。

 ここまで気にかけてくれて、ありがたいな。

 ひとりっ子で育った私は、人懐こくて可愛らしい彼女を密かに妹のように思っていた。

 緩やかな喜びが私の胸に押し寄せる。

 先ほどまでよりも、いっぱいに詰まっていた胸は幾分か軽くなっていた。
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