離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 そう心の中で繰り返しながらもうひとつの鍋の中のデミグラスソースをかき混ぜていると、玄関のドアが開く音がして、私はクッキングヒーターの電源を切った。

 さっと手を洗い、玄関からリビングへと入ってきた高城を出迎える。

「悠人さん。おかえりなさい」

「ただいま」

 高城は、穏やかな口調で言う。

 その顔はいつも通り微笑んでいるように窺えたけれど、ソファーのほうへ行き、スーツのジャケットを脱いでネクタイを緩めている高城の横顔からは表情が消えていた。

 基本的にいつも穏やかなのに珍しい。疲れているのかな。

 しかし、硬い面持ちで黙る高城は、元気がないよりもどちらかと言うと機嫌が悪いように思えた。

「悠人さん。どうかしたんですか?」

 堪らず声をかけると、ソファーの背もたれに寄りかかった高城が身体をこちらに向ける。
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