離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 こんな想いは間違いだ。私はいったいなんのためにここへ来たと思っているんだ。あの男に復讐したくて、父が味わった絶望を思い知らせるのに近づいたはずだった。

 ――それなのに、あの男を好きになったなんてありえない。

 シーツを強く握りしめた私は、そのまま顔を埋めて奥歯を噛みしめる。自分への怒りで目頭が熱くなった。泣くまいと息を吐いて堪えるけれど、溜まった涙は限界を超えてこぼれ落ちる。

 ひと筋頬を流れれば、あとは止まらなかった。

 ずっと恨んできたあの深い憎しみを忘れたの? 父の最後はあまりに惨めで、あの日、私は高城を一生許さないと胸に誓ったじゃない。

 正気に戻れ。どれだけ優しくされても、甘い言葉をささやかれても、あの男は無慈悲な男だ。父を、私を、不幸にした元凶なのだ。

 あの男とだけは、心から結ばれるわけにはいかない。
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