離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる

　高城は、心配そうに私の手を眺めている。私は心を整えるよう、男に聞こえないように小さく息をついた。

「先ほどは本当にありがとうございました。私は梅原(うめはら)まつりと申します。よろしければお名前をお伺いしてもよろしいですか？」

「俺は高城。高城悠人だよ」

　片手で器用にジャケットの胸ポケットから名刺入れを手にした高城は、こちらに名刺を一枚手渡す。

　私はそれを受け取り、視線を走らせた。そこにも間違いなく高城悠人と書かれている。怒りで身体が震えそうになり、名刺を持つ手に力を込めた。

　やっと辿りついた。

　この男が父を苦しめ、死に追いやった張本人。私たち親子はこの男に人生を変えられたのだ。

　私は今も鮮明に頭の中に残っている、古い記憶に思いを巡らせる。