離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 それでも会いに行くと父はいつも明るく笑っていて、『まつり。誰かを愛し、誰かに愛される人間になれ。たったひとりでもいい。信じられる人を見つけられたら、たとえささやかでも幸せになれる。孤独な人生ほど寂しいものはないぞ』と話していた。

 まるで私を遺していくのをわかっているようで、そのときの私は悲しくて受け入れられなかったけれど、父はずっとひとりで覚悟を決めていたんだな。

「お父さん……」

 自然の音以外聞こえない陽だまりの下に、私の消え入りそうな声が響いた。

 私の横を通り過ぎた高城の父が父の墓前にしゃがみ込み、手を合わせる。

「藍野。お前との約束を守れなくてすまない」

 その声は固く寂しげで、私は鼻の奥がツンと痛み、目の縁から涙が滲み出てくる。

 立ち上がった高城の父は、私に一礼して来た道を先に戻っていった。
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