離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 スーツ姿は何度も見ているのに、大好きな人のタキシード姿はやはり特別に感じられた。私が見惚れていると、悠人さんが眉尻を下げて困惑したように話し出す。

「こんなに綺麗だと、ほかの誰にも見せたくなくなるな。このまま俺だけのものにしたい」

 そう言われ、私はひどく照れくさくなり、唇を結んだ。

 悠人さんはそんな私を甘ったるい眼差しで見つめていて、私はケミカルレースのショートグローブを着けた手を口もとの前で合わせる。

「これから悠人さんだけのものになるって誓いにいくんですよ?」

 いささか諭すように言うと、悠人さんが楽しげに「くっくっ」と声を漏らした。

「そうだった。それじゃあ仕方ない。綺麗な妻を、皆にも見てもらうか」

 そう言った悠人さんは、私の唇にちゅっと触れるだけのキスを落とす。離れてこちらを覗き込む彼は、子供のようにあどけなく笑った。

 その表情に、私は苦しいくらいにときめく。
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