離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「体調は大丈夫?」

 高城が、心配そうにこちらを覗き込んでくる。男はスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイも外したシャツは一番上のボタンが開けられていた。

 これまでにない距離に近づいたせいか、この部屋にいるせいか、ふいにコロンや香水ではない男性本来の香りを感じて身体の芯がぞわりとする。

 ここがこの男の部屋なのだと、改めて突きつけられた気がした。

「はい……。ご迷惑をかけてしまい本当にすみません」

 私が言うと、高城は「人を担いでタクシーを待ったのなんて初めてで新鮮だったよ」と小さく笑みをこぼす。私はふがいなくて頭を抱えたくなった。

「でも、記憶がないのは残念だな」

 その言葉に、私は「えっ?」と戸惑いの声を上げた。
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