離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 父は昔『迷ったときはよい行いだと思うほうを選ぶといい。そうすれば不思議と後悔しないぞ。人間は人が喜んでくれると結局自分も幸せになれるからな』と言っていた。

 それに従えば、今の私は間違っているのだろう。あのときの憎しみを胸の奥底に仕舞い込み、普通に生きていく道もあった。

 それでも私は復讐する道を選んだ。むしろこの八年間、あの男に復讐することだけを考えてきたおかげで生きてこられたのだ。

 だからこの目標を失えば今の私にはなにも残らない。きっと、立ちどころに深い悲しみに沈んで動けなくなる。

 私は憎しみに突き動かされてなんとか歩いているだけの哀れな生き物なのだ。

 ふと郁実のほうへ視線を戻すと、彼は侘しげな顔つきをしていた。私は胸に小さな痛みを覚える。

「お前が心配だ。憎い相手のそばにいたって、親父さんを思って余計に悲しくなるだけじゃないのか」

「そうかもしれない」

 私はぽつりとつぶやいた。
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