離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 現にあの男といると、どうしたって悲しい記憶に捉われている。それどころかあの男と接近してからほとんど毎晩父を失ったときの夢を見るようになり、あまり眠れなくなっていた。

「でも、どうしたって許せないの」

 ずっと私をひとりで育ててくれていた父を思えば、たとえ間違っているとわかっていたってなにもせずにはいられなかった。

 あの男は、なにも知らずに今日も健やかに暮らしている。

「ごめんね。郁実」

 長年気にかけてくれている郁実には、心から申し訳ないと思っていた。あのあと部屋を出て再び高校に通えるようになったのも、郁実がいてくれたおかげだ。

 眼差しに揺るがない決意を込めていた私に、眉をひそめていた郁実が諦めたように太い息を吐いた。

「なにかあったらすぐに連絡しろよ」

「ありがとう。でも、心配しないで。私は大丈夫だから」

 きっと、心配をかけるのもこれで最後。私はどうなったっていい。もうすぐすべてが終わるんだ。
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